ネットの海で平泳ぎ

過去に思いを馳せたり現実逃避をしたり漫画とか音楽とか映画の話をしたりしなかったり

ゴミ箱から拾い上げた醤油の匂いを纏ったタバコに火をつける朝

いつも通り、仕事おわりに好きな子から電話が来る。他愛無い話。相手の労働を労いながら俺も仕事の愚痴をこぼしたりしていた。

 

雲行きが怪しくなったのはどのタイミングだっただろうか。他の男、いや俺と同じく彼女のセフレの話が出た時からだろう。

 

初めからその子には彼氏がいて、自分も面倒な子に振り回されるのが面倒で、割り切った関係で楽しく過ごせればいいやと思っていた。

 

なのにいつのまにか本気で好きになってしまい、今ままで流されるまま交際してきた自分らしくもない依存の仕方に我ながら驚き引いた。

 

最近になってそれは悪化の一途を辿っている。彼女は何も悪くはない。初めからそういう関係だったのだから。彼女が他の男と寝るのも、ちゃんと好きな相手がいるのも、それに対して彼氏ヅラして嫉妬するなんて、彼女にしたら迷惑極まりない話だろう。

 

だって俺はただのセフレなのだから。

 

それでも会えない時は彼女が何をしているのかと考えてしまう。彼氏とのんびり過ごしているのだろうか。彼氏には勝てる気もして無いけど、同じセフレという立場の他の男の存在は自分の価値を揺るがす。俺は代替可能な存在なのだから。

 

そんな感じで日々自己肯定感は失われ、着実にメンタルはボロボロに痩せ細っていく。

 

だから昨日の電話でもあからさまにメンヘラモードへ突入し、電話越しに彼女がだるそうにしている気配を感じた。電話を切ってから1時間半も話していたのに、楽しいはずの、俺にとって支えにすらなっている彼女との電話が、互いにとって気分を悪くして終わってしまったのか。いや、明白だ。俺が悪い。

 

LINEで謝罪の旨を一本入れるが既読スルー。やめていたタバコに火をつけて荒んでみるも、これっぽちも気持ちは軽くならない。なんならもっとダウナーになっていく。

 

歯を磨いて鼻うがいをしてタバコをなかったことにし、残りのタバコはゴミ箱に放り込んだ。最後に彼女が髪を染めると言っていたので、Pinterestで似合いそうな写真を送りつけてみる。いや、こういうのも重い。

 

ベッドに入るも眠れる気配がない。正確には一瞬寝落ちたのだがすぐに目が覚めて気づけば朝の5時半まで悶々とした時間を過ごしてしまった。

 

カーテンを開くとそこに広がるのは完璧な朝だった。捨てたタバコをゴミ箱から拾い上げる。うっすら醤油の匂いがする。

 

ベランダに出て小さくしゃがみ込んで煙を吐く。昔付き合っていた彼女は、どんなに寒くてもベランダでタバコを吸う人だった。そのときも2人で小さくしゃがみ込んでタバコを吸いながら他愛もない話をしていたのを思い出す。俺に結構する意思がないことを察して別れを切り出された最後の電話も脳内で再生された。

 

今日は彼女からLINEの返信をもらえるのだろうか。本当なら明日は少しだけ家でのんびりと来週一緒に行く現場の予習がてら円盤を見る予定だったのに。

 

10月までは一緒に行く現場の予定が入っている。それを最後に距離を置かれるのだろうか。

 

彼氏がいることも俺みたいなセフレが他にいることも知ってて関係をづづける選択をしたのに、自分の立場もわきまえないで嫉妬ばかりの日々。もうなにも考えずに、彼女のことを好きだという気持ちだけで生きていたい。